伊藤ハム,工場井戸水のシアン検出で製品自主回収へ


 伊藤ハムの東京工場内の井戸水からシアン化合物が検出された事件については,伊藤ハム側が製品の自主回収に乗り出していますが,この件では,2つの問題点が指摘されています。

【問題点その(1)~食の安全と内部統制】
  9月18日の最初の井戸水検査結果が同月24日に判明しており,この時点で基準値を上回るシアン化合物が検出されていたにもかかわらず,水質検査をする機 械のメンテナンスの担当者が,本社への報告を10月7日の1年に1度の定期検査の結果を待ってから行うことと判断したため,報告が大きく遅れた。同工場の 中川修工場長へ報告が行われたのは、同月7日の検査結果として基準値を超えるシアン化物イオンなどが再度検出された10月15日だった。この間製品の出荷 は継続していた。

【問題点その(2)~食の安全と自主回収の対象】
 伊藤ハムが,現時点で自主回収に乗り出したのは,9月18日から10月15日までに製造した製品となっているが,9月17日以前の製品については回収の対象にはなっていない。


  まず,(1)については,最初の検査で異常値が判明した後も,後の再検査結果で異常値が再度裏付けられるまで出荷を継続したというのですから,食の安全を 犠牲にして利益を優先したと批判されてもやむを得ないところでしょう。それが報道されているように,最終段階まで現場担当者から工場長にすら報告されてい なかったというのであれば,企業トップとしては忸怩(じくじ)たる思いがおありかもしれません。
 
 この点,同時にリスクマネジメントに 関する内部統制が的確ではなかった印象が強く見られます。工場長が把握していないものは,本社が把握できるはずもないのですから,検査結果の異常値は,ま ず真っ先に内部報告を上げることが不可欠だったといえるでしょう。確かに検査の不手際で検査結果に異常値が現れることはありますが,それはむしろ経営トッ プの判断で,検査結果の公表と出荷の一時停止を実施する一方で,念のため再検査を実施している旨を公表すればよいことです。結果的に問題がなければ,食の 安全を第一義に行動した点で,むしろ市場の信頼は高まっていたことでしょう。

 また,(2)について,伊藤ハム側が9月17日以前の製品 の回収を行わない根拠は判然としませんが,それがシアン化合物の混入の影響を受けた証拠がないことが根拠であるならば,食の安全の観点からせっかくの回収 も不完全な印象を残すことになるでしょう。なぜならば,9月18日に何か事故でもあって,その結果シアン化合物が混入したというのであればともかく,井戸 水の汚染は土壌汚染に由来することが経験上多いところ,そうであれば,9月17日以前の商品にも今回回収する根拠となる原因と同様の影響があるものと見る 方が自然な受け止め方だからです。

 食の安全をいかに確保するかについて,自らの失敗を正して積極的な安全策を採ろうとする姿勢は非常に 重要かつ評価されるべきものですが,その姿勢が不十分な印象を与えてしまうと,せっかく対策にコストをかけたにもかかわらず,市場からの信頼回復が十分達 成されないこともあり得ないことではないでしょう。今後の伊藤ハムの対応が注目されます。

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