トナミ運輸事件(3)~どうすれば自浄作用を発揮できたか?

本件では,一審判決においても唐突な印象と前置きされているものの,通報者から副社長への直訴,及び岐阜営業所長への直訴がなされています。これらは,ヤミカルテルそのものについてのものではなく,法令違反という意味では程度の小さい中継料問題についてのものではありますが,しかし,この直訴が無視されたことをもって,被告会社においては自浄作用を期待することはできないとの帰結が導かれている点は重要です。
 ここで示された論理に従えば,裁判所としても,先行する通報に被告会社が真摯に対応していたのであれば,後続の通報もいきなり外部に行うべき ではなかったとして,実際になされた通報を違法と断じる可能性もなくはなかったように思われるのです。しかし,実際には結局は先行する通報への対処が全く なかったことをもって,裁判所は後続の通報をまず内部に行うよう要求することが無意味であることを指摘するに至りました。

  このことは,先行する通報への対処の際,何らの自浄作用が発揮されなかったことが,本件通報を適法化させた分水嶺となっていることを意味しています。通報 自体は昭和49年当時のことであるから,会社としてのコンプライアンス体制が確立していない点はやむを得ないとしても,実際に通報を受けた以上,真摯な対 応をしてさえいれば,判示を異にした可能性が否定できないといえます。そのような場合には,会社として自浄作用発揮の機会を生かすことが引き続き可能だっ たといえるでしょう。

  もとより,会社ぐるみでヤミカルテルを維持するような場合には,およそ自浄作用の発揮は期待できないのですから,前提となるのは法令遵守に向けた経営陣の 本気の姿であることは間違いないところというべきです。そのような姿勢を持つ企業であればこそ,裁判所も自浄の機会を尊重してくれるというものでしょう。

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