5分で分かる!公益通報者保護法の改正案と対応のポイント

はじめに

公益通報者保護法は、2006年に運用を開始し、2020年に改正、今に至りますが、2024年5月から再び改正のため有識者検討会が開かれ、結果を基に改正案が国会に提出される予定となっています 。本コラムでは、①改正案の概要、そして②事業者としてどう対応したらいいか、解説します。

1 公益通報者保護法とは?

公益通報者保護法とは、労働者等が公益のために通報したことを理由に、解雇などの不利益な取り扱いを受けないよう、どのように通報すれば保護されるかというルールを明確にしたものです。

そもそも公益通報とは、「①労働者等が、②一定の法令違反行為を、③不正目的でなく、④定められた通報先に通報すること」を指します。あらゆる通報が保護されるわけではなく、一定の要件があります。

2 2020年の改正について

公益通報者保護法の運用後も、残念ながら不祥事の隠蔽や通報者への不利益処分が相次ぎました。そのため、2020年に以下の通り改正しました。

◇改正点

大きく次の3点が変更されました 。

  1. 公益通報として扱われる範囲を拡大
  2. 保護される通報者・対象法律など追加

  3. 通報者の保護を拡充
  4. 保護要件の緩和、退職者・役員の保護

  5. 事業者・行政機関のすべきことを拡充
  6. 体制整備の義務など

これらにより、公益通報をより行いやすくするとともに、制度の実効性を高める事が図られました。

◇特に事業者が意識すべきポイント

改正により、事業者として行わなければいけない事は次の4点です。

  1. 公益通報に対応する担当者(従事者)を指定
  2. 通報受付窓口の設置、整備
  3. 通報者を保護する体制の整備
  4. 体制をきちんと機能させるための周知・教育など実施

特に1に関しては、通報者を特定する情報を漏洩した場合に刑事罰が適用されるようになりました。

この改正を受けて、相談窓口などの通報受付体制・制度がより一層整備されることとなりました。

3 有識者検討会による改正案について

◇検討の背景

2020年改正により一定の効果は得られたものの、一方で対応体制の不備や義務の不履行など、課題も浮かび上がりました。消費者庁が実施したアンケート によると、内部通報制度の周知・研修不足、活用不十分、機能不全の部分がある事も分かりました。

(参照:「内部通報制度に関する就労者1万人アンケート調査の結果について」https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/research/assets/research_240229_0001.pdf)


改正法施行(2022年)後3年を目途に法の内容を再検討すると定められていた事もあって、2024年5月~12月に計9回の検討会が開催され、結果は報告書として纏められました。

(参照:「公益通報者保護制度検討会報告書」2024/12/27https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/review_meeting_004/assets/consumer_partnerships_cms205_250109_01.pdf)

◇従来からの変更点(案)

変更点は、下表のとおりです。大きく4つの論点があります。

大項目 細目 対象 備考
体制整備の徹底 従事者指定義務の違反について 事業者 刑事罰
法令周知義務 事業者
通報を阻む要因への対処 通報者を探索する行為を禁止 事業者
通報の妨害禁止 事業者
不利益取り扱いの抑止・救済 不利益取り扱いへの刑事罰 事業者 刑事罰
事業者に立証責任を転換 事業者
その他 保護対象の拡大 事業者

この中で、特に事業者が意識すべきポイントを見ていきましょう。

◇特に事業者が意識すべきポイント

事業者としてすべき対応は、以下のとおり纏められます。

  1. 通報受付体制を確実に整備し、運用しましょう
  2. 通報をしやすい環境を作りましょう
  3. 不利益取り扱いは禁止です
  4. 保護される通報者の範囲が広がります

それぞれ、詳しく確認します。

1.通報受付体制を確実に整備し、運用しましょう

通報に対応する従事者を指定し、必要な教育・研修を実施します。この義務に違反しかつ消費者庁の命令を無視した場合、刑事罰を科される見込みです。

また、通報制度そのものを、事業者が従業員に説明する義務も負います。

従業員300人以下の事業者は、通報制度の整備は努力義務ですが、法改正がされ通報制度がますます浸透すると、今まで導入していなかった事業者も、体制整備義務が課される可能性があります。民間の支援サービスも増えてきていますので、一度検討してみても良いでしょう。

2.通報をしやすい環境を作りましょう

労働者等が、通報を躊躇わない環境を作る事が重要です。特に、事業者は下記について事業者内に周知徹底する必要があります。

  • 探索行為の禁止:
  • いわゆる「通報者探し」です。通報者本人だけでなく、他の労働者等も萎縮し、通報しにくくなってしまいます。

  • 妨害行為の禁止:
  • 「通報をするな」と労働者等に約束させる事などがこれに当たります。こちらも、労働者等が通報できなくなってします要因です。

3.不利益取り扱いは禁止です

公益通報をした事を理由に解雇や降格・減給等をすることは、現行法でも禁止されていますが、今回の改正案では不利益取り扱いを行った場合、刑事罰が科されるようになる見込みです。ただしこの刑事罰の対象は解雇・懲戒のみで、不当な配置転換や嫌がらせなどは、通常の人事異動の妨げとなる可能性があるため刑事罰は見送られる方向です。

また、万一公益通報と不利益取扱いに関連性があると申し立てがあった場合、その関連性について事業者側が立証する責任も負います。ただこちらも対象は解雇・懲戒に限り、通報から1年以内という期間制限も設けられる予定です。

4.保護される通報者の範囲が広がります

フリーランスを保護対象に含む方向です。公益通報を理由とした契約解除、報酬減額などの不利益取扱いは禁止されるべきとされています。事業者は、こうした対象者向けにも通報体制を整備し、また周知する必要があります。

4 おわりに

◇まとめ

このコラムでは、2024年に審議された公益通報者保護法改正の概要を見てきました。そして、事業者として通報体制を一層整備し、また見直すべき場合があることを確認しました。

通報制度は、実際の対応によるノウハウの蓄積がすぐに叶うものではない一方で、関連する法律が刻々と改正され、社内だけではなかなか運用が大変な実態があります。

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※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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