カスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」が社会問題となり、日本各地で対応するための条例を制定する動きがあります。また厚生労働省は、より実行力のある制度改正に乗り出しています。そこでこのコラムでは、現在の規定等の概要、各自治体のカスハラ対策状況、今後の動き、そして事業者として具体的に何をすべきかを、見ていきたいと思います。
本コラム執筆時点では、全国で統一したカスハラの定義はありません。しかし、以下が参考となります。
まず、全国に先駆けて東京都が制定した条例では、下記の通り定義されています。
・カスタマーハラスメント:顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの
・著しい迷惑行為:暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為
(出典:東京都産業労働局ホームページ
https://www.nocushara.metro.tokyo.lg.jp/customer_harassment/)
また、同じく厚生労働省が審議中の案では、下記3要件を満たすものをカスハラとしてはどうか、と議論されています 。
どちらも共通するのは、顧客等が行う常識を超えた要求・言動で、労働者の働く環境に悪影響があるのがカスハラということです。そしてここには、正当なクレームは含まれません。
根拠となる法令は、2020年6月に改正された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)です。この法令に関連した指針内に、カスハラ対策に取り組むことが望ましいと記されています。具体的には、以下3つの取組みです。
ただし、義務を課すものではなく、違反による罰則等はありません。
では実際のところカスハラがどのように問題となっているでしょうか?2024年5月に発表された実態調査を見てみましょう。
まず相談件数ですが、「過去3年間に相談件数が増加した」と答えた企業の割合が「相談件数が減少した」と答えた企業を大きく上回っています。
(出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要」(2024/5))
またその内容は、「威圧的な言動」「執拗な言動」がそれぞれ5割を超えており、行為者の殆どは顧客等という結果です。
そしてカスハラに遭った後の心身への影響ですが、被害者の6割ほどが「怒りや不満、不安等」を感じ、4割超が「仕事に対する意欲が減退した」と答えています。カスハラは件数が増加しており、労働者に深刻な影響をもたらしている事が分かります。
次に、現時点で制定されている、また制定見込みの条例等について見ていきましょう
未だ案の段階ですが、事業者にカスハラ対策の措置を義務付けること、具体的には下記4つの取組みを義務とすることを検討しています 。
現在までと大きく違うのは、カスハラ対策をパワハラ等と同様に事業主の措置義務とするところです。
各自治体では、条例を制定してカスハラ対策に乗り出しているところがあります。
全国に先駆けて条例を制定し話題となりました。カスハラ防止、事後の処置等を事業主の責務とする内容で、詳細は2024年中に取りまとめ予定の指針で定めます。
制定は全国2例目です。カスハラ対策への積極的取組を謳っています。
こちらはまだ制定前ですが、制定されれば市区町村としては初の事例です。注目点は、行為者に警告したものの改善が無ければ、氏名を公表するという罰則を組み入れた点です。
このほか、独自に方針を制定・発表している事業者も多く、条例や法整備も今後ますます進んでいくものと予想されます。
では、事業者としてカスハラ問題にどう対応していくべきでしょうか。大切な事は、カスハラを「しない、させない、(被害を)最小限に抑える」の3つと言えます。
カスハラは許されない、と内部で周知しましょう。従業員等が行為者となってしまうと、事業者のイメージも確実にマイナスとなります。行為者を出さないことは、事業者を守り、そこで働く従業員等も守ることに繋がります。
自分たちはカスハラ対策をこのようにする、という方針を内外に周知しましょう。従業員等に安心感を与えるとともに、行為者になり得る者に対して予防線を張る事ができます。
周知する内容の例として、以下が挙げられます。
HP等に基本方針を掲載するとともに、ポスターを作成し顧客等の目に入るようにすることも有効です 。この際、自社の不手際を棚に上げるようなことはせず、正当なクレームには真摯に対応する一方、ハラスメントには毅然と対応するという態度を打ち出すことも重要です。
事前対応として、①相談窓口の設置、②カスハラ対策ルールの策定、③対応ルールの教育・研修、などが考えられます。いざカスハラが発生しても迅速に対応できるように、普段から準備しておきましょう。
特に、ルールの教育・研修は重要です。カスハラと正当なクレームの見極めを誤ると、「この事業者はどんな意見も聞いてくれない、自らの過ちを認めない」と認識され、顧客等からの信頼を失うことにも繋がりかねません。形式的なマニュアルに留まらず、自らの業種・業態などを鑑みて具体的な事例を想定しつつカスハラとなる場合を認識し、対応について従業員が理解、共有できるよう教育していくことが必要です。ハラスメントの定義、対応のコツ等は専門の外部講師に研修を依頼するのも一つの手でしょう。
事後対応としては、①ルールに基づいた対応、②被害者(従業員)へのメンタルケア、③再発防止の取組、④取引先等から要請があれば協力、などが挙げられます。迅速に対応し、従業員を守るという姿勢が大切です。
対策ルールに何を定めたら良いか等、具体的なアクションについては厚生労働省が発行しているマニュアルが参考になります。
(※厚生労働省HP「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省」)
厚生労働省が実施した調査によると、実際にカスハラを受けた労働者は「怒りや不満、不安などを感じた」「仕事に対する意欲が減退した」と感じており、また事業者も「通常業務の遂行への悪影響」「労働者の休職・離職」などの損害・被害を被ったとの声が多くあります 。
カスハラに対し措置を講じなければ、円滑な事業活動も阻害されてしまいます。自分たちは大丈夫と過信せず、出来る事から一つずつ取り組んでいきましょう。
今回のコラムは、カスハラ対策として何をすべきかを見てきました。従業員を被害者にも加害者にもさせないことは、従業員を守るのみならず事業の継続的発展にも繋がります。ぜひ積極的に取り組みましょう。
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